正月には里帰りをする。
我が家では、母方の祖父母の田舎に行くことになっていて
会社が休みに入ったその日のうちに実家に戻って
翌日から母方の里に戻ることになる。
母方の祖父母の住む家には「じいちゃんの部屋」というものがある。
小さな六畳程度の和室には、じいちゃんの趣味の本と書道道具が置かれていて
定年してから書道にハマったというじいちゃんの部屋は、つねに墨の匂いがしみついていて、
私は割と好きだった。
玄関に出迎えに来てくれたばあちゃんと、
相変わらず自分の部屋に居たじいちゃんと。
じいちゃんの部屋を覗くと、相変わらずの書道道具に囲まれて
一年前より皺が深く刻まれたじいちゃんが座っていた。
「おお」
来たんか。
と。
「書初めはしたんか?」
と、じいちゃん。
「私、下手だからせんよ」
「下手もなんも気にせんで、してみりゃええのに」
と、じいちゃん。
それから、じいちゃんはおもむろに立ち上がると棚をがさごそと探し始めた。
去年よりもどこか歩き難そうに見えるのは気のせいだろうか。
長生きしてよね、と思う。
すると、じいちゃんは棚から一本の筆を取り出してきた。
「ええやろ?」
自慢の筆だろうか。
見てもさっぱりわからないが「ん」と適当に答えた。
「これなぁ。譲り受けたんだわ。ええ筆だで。なかなか使えんでなぁ」
愛おしそうに筆を触る。
それから細い目を糸の様に更に細めて、私を見て言った。
「これを初めて使うのは、お前さんの子供の名前を書くときやろうなぁ」
彼氏も居ないのに?!
そんなこと言ってたら使えないまま終わったりしない!?
それはとても気まずいんですけど!?
祖父に会ってもやもやしてきたら
会いにきてください。
一緒に考えていきましょう!