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そんなことを言われても……

 

 


正月には里帰りをする。


我が家では、母方の祖父母の田舎に行くことになっていて

会社が休みに入ったその日のうちに実家に戻って

翌日から母方の里に戻ることになる。



母方の祖父母の住む家には「じいちゃんの部屋」というものがある。

小さな六畳程度の和室には、じいちゃんの趣味の本と書道道具が置かれていて
定年してから書道にハマったというじいちゃんの部屋は、つねに墨の匂いがしみついていて、

私は割と好きだった。


玄関に出迎えに来てくれたばあちゃんと、

相変わらず自分の部屋に居たじいちゃんと。


じいちゃんの部屋を覗くと、相変わらずの書道道具に囲まれて
一年前より皺が深く刻まれたじいちゃんが座っていた。

 

(撮影:比良井しほり 撮影機材:NikonD3300)


「おお」

来たんか。

と。



「書初めはしたんか?」

と、じいちゃん。


「私、下手だからせんよ」

「下手もなんも気にせんで、してみりゃええのに」


と、じいちゃん。


それから、じいちゃんはおもむろに立ち上がると棚をがさごそと探し始めた。


去年よりもどこか歩き難そうに見えるのは気のせいだろうか。
長生きしてよね、と思う。


すると、じいちゃんは棚から一本の筆を取り出してきた。


「ええやろ?」


自慢の筆だろうか。
見てもさっぱりわからないが「ん」と適当に答えた。


「これなぁ。譲り受けたんだわ。ええ筆だで。なかなか使えんでなぁ」


愛おしそうに筆を触る。

それから細い目を糸の様に更に細めて、私を見て言った。




これを初めて使うのは、お前さんの子供の名前を書くときやろうなぁ








彼氏も居ないのに?!



そんなこと言ってたら使えないまま終わったりしない!?

それはとても気まずいんですけど!?



祖父に会ってもやもやしてきたら



会いにきてください

一緒に考えていきましょう!