会社の近くにセルフのうどん屋さんがあって
そこで働いている彼を見るのが、無味無臭な私の日常のささやかな楽しみだった。
大学生だろうか?
それとも……社員さんなんだろうか?
その時私はかけうどんを頼んで
出てくるうどんと手元だけを見ていた。
ポンと近くに出された瞬間、つゆが少し零れて「嫌だな」と思った。
その時、
「あ。ごめんなさい」
と、はっきりとした、とても優しい声が聞こえて
顔を上げるとうどんを出した手の主である彼が、困った様に私に頭を下げて
うどんの器を丁寧に拭いて――
忙しいセルフうどんの流れ作業の中、丁寧にしてもらえたことが嬉しくて
「あ。大丈夫です」
うどんを受け取って自分のお盆に乗せると、彼はとても優しく微笑んで会釈をしてくれた。
そこから――
彼を見に、うどんを食べに行く自分が居る。
いつも、店内作業服の彼が居る。
「何になさいますか?」
と、時々決まった会話を交わす。
彼のことは何も知らない。
けれど、ただ見ているだけでなんだか胸がくすぐったかった。
彼を見るだけで、ちょっと嬉しくなった。
それだけで、良かったはずだった。
会社帰りに、彼らしき人と腕を組む女性を見かけるまでは――
私……
私、どうしたらいいの!?
なんだかもやもやしてきたら
会いに来てください。
一緒に考えていきましょう。