会社の状況が変わって、リモート作業が多くなった。
飲み会はなかなか開催されなくなって。
月に一度はみんなと一緒に会えていた
あの人とも会えなくなって――
ふと、突然訪れる孤独感。
『今年は、実家に帰らないから』
と、年末母にメールを打っていた。
結婚、結婚とせかされて
そんな時期も過ぎて、むしろ諦められて・・・
妹が子供を連れて帰るだろう孫中心の実家には、私の居場所が無い。
実家に帰らないつもりでいたので、年末年始に一人で旅行をするつもりで
貯金をはたいて中古で軽キャンピングカーを買った。
お風呂屋さんでお風呂に入って、飲食店で食事を済ませて、車中泊。
キャンプ初心者の私の第一歩。
寝袋と念のために毛布を積んで、車を走らせた。
気楽な一人旅。
帰省ラッシュに重ならないように出発して、
少し車を走らせると、のんびりとした景色が広がる。
高速を降りて気ままに車を更に走らせて、適当に車を停めて散策をしてみる。
綺麗な川を見つけて、ぼんやりと眺める。
『元気?』
彼から、LINEが来た。
こちらから連絡をしても、既読スルーにしかならないのに
相手からの連絡はいつも突然で
それまでのことなど、まったくなかったかのように声がかかる。
今回は二か月も間が空いていた。
彼からの連絡は気まぐれ。
私は、遊ばれているの?
私のことなんだと思っているの?
だから、連絡なんて返さない。
何度も繰り返し思っていたのに、たった一言で揺れる私が居る。
――まるで、甘い香りに誘われて食虫植物にハマってしまう虫の様に――。
結婚して半年がたつ。
「結婚して半年じゃ、まだ新婚ほやほやね。ラブラブでしょう?」
と、言われる。
「そんな、若い夫婦じゃあないから落ち着いたもんだよ」
と、答える。
夫との会話はほとんどない。
夫の仕事が忙しくて
朝ごはんは食べない派。
夕飯は会社で食べる派。
家に帰宅すると、
屍のように寝ているか
持ち帰った仕事をパソコンでこなしている。
出張も多くて、家に居ることもあまりない。
なんとなく、想像はしていたけれど
これほどまでに会話が無くて
一緒に過ごす時間が無いとは
思っていた以上に、「なんのために結婚をしたんだろう」と思う自分が居ることに気が付いて――
『元気?』
つい。
5年も前に別れた元カレにメッセンジャーを送ってしまった。
会社の近くにセルフのうどん屋さんがあって
そこで働いている彼を見るのが、無味無臭な私の日常のささやかな楽しみだった。
大学生だろうか?
それとも……社員さんなんだろうか?
その時私はかけうどんを頼んで
出てくるうどんと手元だけを見ていた。
ポンと近くに出された瞬間、つゆが少し零れて「嫌だな」と思った。
その時、
「あ。ごめんなさい」
と、はっきりとした、とても優しい声が聞こえて
顔を上げるとうどんを出した手の主である彼が、困った様に私に頭を下げて
うどんの器を丁寧に拭いて――
忙しいセルフうどんの流れ作業の中、丁寧にしてもらえたことが嬉しくて
「あ。大丈夫です」
うどんを受け取って自分のお盆に乗せると、彼はとても優しく微笑んで会釈をしてくれた。
そこから――
彼を見に、うどんを食べに行く自分が居る。
いつも、店内作業服の彼が居る。
「何になさいますか?」
と、時々決まった会話を交わす。
彼のことは何も知らない。
けれど、ただ見ているだけでなんだか胸がくすぐったかった。
彼を見るだけで、ちょっと嬉しくなった。
それだけで、良かったはずだった。
会社帰りに、彼らしき人と腕を組む女性を見かけるまでは――
1人で何でもしなくちゃならない。
長女ってそういう教育を受けてきた。
お兄ちゃんは「長男だから」と色々と面倒を見て貰っていたけれど
長女だった私は、妹が出来た段階で
「お姉ちゃんだから面倒を見てあげなくちゃダメ」
に、なった。
お姉ちゃんなんだから、しっかりしなくちゃダメ。
そういう教育のもとで育ってきたせいか
人に頼るのは苦手で――
頑張り続けてきた結果、大半は自分でやったほうが早くて、他人に預けられるようなものはあまりなくて……
そんな私にも、会社で気になる先輩がいて。
今回、先輩と同じプロジェクトで、私がサポーターになった。
全力でサポートして、本当に役立っていこうと決心して。
残業したり、持ち帰れるものは持ち帰ったりして
先輩が仕事をしやすいように、完璧にこなしていこうと全力を尽くした。
睡眠時間は削れて
体調を崩しかけて
栄養ドリンクを喉に流し込んで
風邪薬を飲んで――
先輩との打ち合わせの時に、先輩は私の制作した資料を見てとても喜んでくれた。
「すごいなぁ! よくここまで資料作りこんだなぁ! 完璧! いや、それ以上だよ!」
嬉しかった。
先輩の役に立てて、嬉しかった。
「しかも、よくここの流れも把握されている。お前、俺が居なくてもこの仕事出来るんじゃないの?」
「そんなことないです。初経験ですし」
「この具合なら、サポートで一回流れを把握したら、充分だろ」
「そんなこと……」
熱で頭がクラクラする。
「お前ってホント、なんでも一人で出来そうだよな」
必死に頑張ってきたことが
なんだかすべて否定された気がした。
なんだか、転んでも手を差し伸べない宣言をされた気がして。
私が転んでも、誰も気が付いてくれない気がして。
30も超えてくると、女友達が減っていく――と思うのは私だけだろうか?
「同じ境遇を共にする仲間」というものを大切にしたがる女子にとって
結婚した者と
未婚の者とでは
気が付けば接点が途切れて
周りの友達が結婚した分、どんどんと友達が減っていくような
そんな感覚に陥る。
休みの日に会う友達も随分と減ってしまって
珍しく25歳の会社の後輩女子社員と見たい映画が一致。
その話で盛り上がって
久々の外出。
消してめちゃくちゃ仲の良い後輩でもなかったのだけど……
何で彼女と一緒に映画とか見に行くことになったのか解からないけど……
映画は実に面白かった。
映画を終えて、二人でコーヒーでもと喫茶店に入る。
「先輩と来られて良かったです。私、一人で映画見られないんで」
人懐っこく笑顔を見せるけれど……
「あなただったら一緒に映画を見る男の子たくさんいるんじゃないの?」
と、思っていた疑問をぶつける。
社内でも噂の絶えない、恋愛体質な子だと思っていたから。
「だって、今回の映画は男の人ちょっと苦手じゃないですか? 年を重ねた女性主人公にした恋愛映画だし、結構エグイ女性が描かれているじゃないですか? そういうの、男の人とは見ないほうがいいと思うんですよね」
――納得しました。
それから彼女はスマホを取り出し、スマホ画面の反射を鏡に使って
「やだぁ。髪がはねてる~」
彼氏が出来た。
お互いにいい年だし。
彼が最後の恋人になるのではないかとも思うけれど・・・
彼の趣味はカメラだという。
趣味があるのはいいことね。
と、思っていたのだけれど・・・
出掛けても、彼は
私じゃなくてカメラとばかり向き合っている。
私を撮影してくれるならまだ
ずっと景色とカメラばかりと向き合っている――
仕事が少し落ち着いた合間に
久々にゆっくりと息抜きに旅をしようと
車を走らせて、気ままに一泊旅行をすることにした。
ゆったりとした街並みを歩いて
ぼんやりと過ごす。
「出会いは探さなくちゃ」
友達に言われて、それもそうかと思って……
「アンタさ? お酒飲むの好きだし、一人でバーとか行ってみればいいじゃない?」
という友達の言葉を受けて、
一人は家飲み専門だった私が、勇気を振り絞って一人でバーに来てみたけれど……
なかなか良い出会いって無い。
一人暮らしをはじめて3年。
一人暮らしをする前は、なんだか夢が膨らんでいた。
門限も無くなって
自由になって――
彼氏が出来て
同棲して――
相変わらず、一人分の料理を作っている私――。
「先輩、インスタってやってますか?」
会社の食堂でたまたま一緒になった後輩が、ふと声をかけてきた。
入社1年目のピチピチした彼女。
「お局」という印が頬あたりに書いてあるんだろう、私に気を遣って彼女なりに声をかけてきたのは見て取れた。
「あ、うーん。アカウントだけは取得したよ」
テレビのニュースにまでなる「#インスタ映え」というものに、乗り遅れてはならないのではないかと不安を感じ
ダウンロードをして、アカウントは作ったものの・・・
彼氏も居なければフォトジェニックな日常とは程遠い私は、使い方が解らなかった。
「先輩のアカウントフォローしていいですか?」
「いいけど……何もあげて無いよ」
ダウンロード初日にとりあえずわけもわからず撮影した
テレビと、机と、缶ビールの写真が一枚あるだけ。
何故か5イイネがついている。
アカウントのやりとりをして、彼女の写真を見てみると
「あ。この間~、彼氏と旅行に行ったんですよ~」
結婚して、2年と少し。
彼とは7年のつき合いを経て結婚をした。
切っ掛けは彼のご両親が「いい加減にどうするか決めなさい」と彼に話を振ったことからだった。
「別れる理由も無いっちゃないし、入籍するか」
というのが、彼のプロポーズだった。
変わったのは私の苗字だけで
日常的には何の変化も無かった。
慣れ親しみすぎた関係――
最近、彼の挙動がおかしい。
長いつき合いだからこそ、解る「浮気」の香り……
多分、彼は浮気をしている……
どうしていいのか?
どうするべきなのか?
何で私は浮気なんかされなくちゃいけないんだろう?
つき合って5年目にも一度、浮気をされたことがある。
その時彼は謝ってよりを戻すことになったのだけれど……
会社の同期女子社員と、土曜日にランチをすることになった。
色々考えるよりは、気がまぎれるかもしれないと誘いに応じた。
食事中、彼女は大学時代の友人からの相談に辟易している様子で愚痴を言い続けていた。
入社して8年目。
「局」という文字がきっと額でピコピコしはじめたのを通り越して
既に「刻印」という域に達しているのだろう
そんな年齢。
同期入社は順に結婚退職をして
いまだ会社に残っている、そんな私。
恋心なんてものはとうの昔に凍結されて
無味無臭の日々を送ってはいたのだけれど……
少し前に転勤してやってきた3つ下の同じ部署の男性社員が
「ちょっといいな」なんて思えて。
ババアなんて言わないし
気さくに話してくれるし
色んなこと、知っていますよねなんて、嬉しいこと言ってくれて。
なんだか凍結させていた恋心が、もう一度解凍されはじめた頃――
男子社員が何やら集まってスマホを片手にワイワイとやっていた。
「何してるの?」
と、声をかけると係長が笑顔で答えた。
「今年の新入社員の〇〇さんがインスタあげているって話で盛り上がっているんだ」
と。
話題の可愛い新入女子社員。
気になる彼が、笑顔でスマホを私に見せてくれた。
初めて、真剣に交際をする彼氏が出来た。
別に今までが適当だったわけでは無くて、
つき合って一週間でフラれるとか
気が付いたら、ひと月後にはフェイドアウトされていたとか
『つき合う』というものがどういうものなのか……
いや、むしろ
それらは「つき合い」のうちにも入らなかったのかもしれない。
それまでの関係性としては「手をつなぐ」のが最上級のコミュニケーションで
それ以上の関係を持ったことが無かった。
彼氏がいない期間はとても長く
その間に理想的な妄想は私の中で随分と育ってしまっていたのだろう。
つき合って三か月。
彼の方から気持ちを伝えてくれた。
30を目前に、お互い結婚も考える年齢で、
この人と結婚するのだろうかと正直考えた。
彼は、一緒に居ても手をつないでくれない。
彼は、どこかに行ってもマイペースに行動をする。
彼は、歩調を私に併せてはくれない。
一緒に外に出かけるからと
「お弁当作ってこようか?」
と声をかけると
「そういうの、いらない」
と、断られる。
夢見ていたのは、なんだか「甘いおつき合い」
彼氏が出来た。
彼氏?
彼氏・・・・・・?
いや、違うかもしれない。
体の関係は
ある
好きだと、伝えた。
「可愛いよ」とは、言ってもらえた。
7つほど年上の男の人。
連絡はまばらだけれど、時々会って
遊んで
Hをする。
職場までの電車に乗る。
通勤ラッシュ。
ぎゅうぎゅうとまではいかないまでも、そこそこの人が居て
どこに視線を向ければいいのか解らず、私は電車内にあるチラシに概ね目を走らせる。
発売中の雑誌の見出し。
英会話広告。
予備校への勧誘。
法律事務所の案内。
の中で
「期間限定! ビアガーデン開催」
のチラシを見つけた。
家からそれほど離れていない繁華街近くの広場で、期間限定のビアガーデンが開催。
というものを見かける。
――へぇ、今週末までなんだ。
じゃあ、行こうかなぁ。
土日にやることはほとんどない。
家の掃除か、買い出しか……それ以外は特に何もすることが無いわけで。
せっかくなら、行こうかなぁなんて思った。
イベント最終日。
ある程度の混雑は予定していたのだけれど……
予想以上の
人、人、人!
気がついたら、日常を繰り返していた。
いつから、そんなことに気がついただろうか。
20代も後半で「これじゃあいけない」と思った事もあった気がするけれど……
「彼氏が欲しい」と、もがいたけれど結局成果は得られなくて
何か大きく変化させられることもなく
仕事がそれなりに忙しいのも、良かったのか悪かったのかーー
日常に絡め取られるように
「これじゃあいけない」
なんて気持ちは姿を消して
ルーティンだけの日々が過ぎて行く。
「おばさん」
と、言われることにも慣れて
適当な切り返しも学んで
それすらもルーティンになって……
ふと
鏡を見ると
京都に一人旅に来た。
元カレと別れて傷心旅行を一人でしたのがきっかけで
一人旅って案外と楽しい。
と、それから時々一人で旅行をするようになった。
旅行の行先はいつも彼氏に結果併せることになっていたし
彼とどこかに出かけるたびに
「また、別の人と来られる機会があったら来たいな。もっと堪能したかったのにな」とどこか心残りを作っていたから
思う存分自分のペースで楽しめる一人旅行は
本当に楽しかった。
京都、嵐山散策。
気になったおかき屋さんがおいしそうだったから「買おう」と決めた。
電車旅は荷物が多いのが難点。
ようやく財布を取り出して、おかきを一つ買った。
とはいえ、おかきを持って片手で財布を大きなカバンに上手くしまえなくて
背後に並んでいたカップルに即座に窓口を譲ろうと両手がふさがったまま場所をずれた。
お尻のポケットに入れた財布を彼氏さんの方が取り出す。
「おかき二つください」
私ほどではないにしても、大きなカバンを肩にかけた彼女さんに、彼氏さんはハイとおかきを彼女に渡す。
「座れるところ、探す?」
「歩きながら食べてもいいよ」
「そうだね」
そんなやりとりを見ながら、
私は財布をカバンにしまいたくて、とりあえず座れるところを探そうと歩き始めた。
散策をしたいけれど、まずは財布をしまいたい。
空いている「座れるところ」を新たに探すのに、15分ほどの時間をかけてしまった。
ようやく椅子に座って、おかきを置いて
カバンを下して財布をしまって。
元カレと別れて3年。
「もうそろそろ、新しい彼氏作ったら?」
と、友達は心配して言ってくれるけれど……
若くも無い私は、コンパに出向く勇気もなければ
そんな誘いも機会もなかなかなくて……
「そうだねぇ」と適当に流す。
「うちの旦那の知り合いを紹介してあげたいけれど、みんな既婚者なのよね」
とはいえ、アテは無い。
そんなことを友達がさりげなく伝えてきていて、期待もしていない私は適当に頷いた。
「婚活とか、さぁ」
とりあえずまた適当に頷いておいた。
元カレは、一方的に「好きだ」と押してくれた。
戸惑いながらも押されて押されてつき合うことになったのだけれど……
元カレには「君との結婚が見えない」と言われて別れることになった。
年齢も年齢の別れ。
周りは気遣ってくれたけれど、私はそれほど引きずってはいない。
ただ、
心のどこかに一部ひっそりと貼りついているのは、若いころに半年ほど同棲した彼の存在……
会社に勤めて、そろそろ10年になる。
企画を任されるようになってきたのは3年ほど前から。
小さな企画とはいえ、やりがいがある。
「女として、可愛げがない」
女として否定をすることしか出来ない小物な男性社員を尻目に
仕事仕事の日々を過ごす。
気が付くと、洋服も「仕事用」を意識したものばかりがクローゼットに並び
残業が続けば髪を振り乱して
時には会社に泊まって
会社近くの漫画喫茶でシャワーを浴びることにも慣れてきた。
今回も仕事が大詰めに差し掛かって。
終電で家に帰る。
ただ、寝るだけの部屋に電気をつけて倒れこんだ。
そのまま寝落ちしてしまいそうで、せめてお風呂は入らなくてはと思いながらもなかなか体が動かない。
ああ。
ああ。
ダメダ。
なんだかうとうとしかけた時に
違う企画を練っている同期の男子社員に廊下で言われた言葉がちらりと頭に浮かんだ。
『仕事ばっかりもいいけど、そういう女って男は引くんだよな』
知ってる。
違う企画の対抗意識で、足を引っ張りたくてそんなことを言われたことは、充分に解っている。
だから、私は鼻で笑って返したのだけれど。
目の端に入って来た、雑然と積まれた経済新聞。
家に帰ると倒れるように眠るだけ……
なんだか、雑然と積まれた日常な気がした。
会社に勤めて8年。
最初は、「腰掛け」なんだと思っていた。
好きな仕事だったわけでもない。
「いい会社に勤めて、いい男の人に出会わないと結婚出来ないわよ」
というのが私が小さい頃からの母の口癖だった。
いい会社かは解らない。
一部上々企業ではある。
別段興味も持てない仕事ではあったし、色々あるのだけれど
給料は平均的な額が貰えるし
福利厚生はそれなりにしっかりしている方だと思うし
有休もまぁ取れなくもない。
土日休みの土日出勤はほぼ皆無。
残業は繁忙期に時々2時間程度が続くくらいで……
腰掛け程度で終わるのだと、なんだか信じていた。
あまりに自分の発想が稚拙だったのだと思う。
興味もないけれどもそれなりに安定した仕事に就いたら、自動的に素敵な彼氏が出来て、2年、3年で結婚をして、寿退社をするものだと思っていた。
そうではないんだね、と気がついたときにはもう随分と時が過ぎ去っていた。
腰掛け寿ルートに乗ったのは同期入社の女子社員たちで、私はなぜかそのルートから外れてしまった。
最後の同期が嫁入りしたのは3年前。
最後に生き残ったシーラカンスみたいな気分だ。
かといって、後輩女子社員との関係性は悪くは無い。
これは、私の運がいいのか……はたまた私のキャラクターなのか……
局というよりも「長老」みたいな扱いである。
いつもの日常を繰り返すのに
いつものストレスはかかるものの、
日常を逸脱しようとはなかなか思えない安定もあって…
それでも、そんな何かを打破したくて
時々ふわりと一人旅に出る。
安いビジネスホテルをとって、時刻表を見ながらブラブラ刺激を求めて旅をする。
ある有名な中華街で夕飯を食べようと、わくわくしながら足を運んだら……
思いのほか閑散として、多くの店が閉まっていた。
慌てて調べると、どうも閑散期にさしかかって閉めている店も多いということが見つかった。
彼との関係は、2年目に突入していた。
会社の上司。
信頼できる素敵な上司だった。
それが、いつの頃からか……大人の関係へと発展してーー。
奥さんの愚痴は聞く。
仮面夫婦だといつも寂しそうに話す。
君と居ると癒される、と 言ってくれる。
「今度、旅行へ行こう」
初めての二人での旅行。
「いいの?」
「家族には出張って言ってあるから」
彼の運転で、初めて旅行に出かける。
それが嬉しかった。
助手席に乗り込むと、いつも通り電源の切られたドライブレコーダーが目に入る。
奥さんの愚痴は聞く。
仮面夫婦だといつも寂しそうに話す。
でも、私との関係は秘密。
楽しい一時を過ごして、彼がとってくれた観光用のホテルに宿泊をすることになって。
「君は待っていて」
フロントから離れたところに立って部屋の鍵を貰う彼を待つ中で
聞こえてきた、彼の名前とは違う名字でのフロント係とのやりとり。
偽名で宿泊?
なんか、ドラマみたいねと思って寂しくなる。
彼とは2年ほどのつき合いになる。
会うのは、いつも居酒屋か直接ホテルか……
取引先の会社の担当者だった彼。
担当が変わったのをきっかけに、連絡先の交換をして――
大人の関係になるまでにそれほどの時間はかからなかった。
コンビニで買いこんだお酒を持ち込んで
ホテルで飲みながら、彼にスマホのサイトを見せた。
「ねぇ、ねぇ。ここのピザなんだけど、最近評判らしいんだ。食べてみたいと思っているんだよね」
「ふぅん」
と、彼は優しい声でスマホを覗き込むように私に顔を寄せる。
彼のいつもつけている香水の香りが鼻をくすぐって、なんだか安心する。
「いいねぇ。美味しそうだ」
「今度、食べに行こうかと思っているんだよね」
私が言うと、彼は目を細めて笑った。
「相変わらず、食べ歩きが好きだなぁ。色々知っているもんなぁ」
そんな会話を交わしたのは、木曜日の夜。
土曜日に、私はピザの店に赴いた。
予約が出来ないお店で、店に行くと列が出来ていた。
さすが人気店。
仕方ない。
一人で並んでいると、目の前に並んでいる女子大生らしき三人組が、楽しそうに話をしている。
「なんのピザにする?」
「え? これ意外と安くない?」
「店の中とか、結構可愛くない? インスタ映えしそうだし」
会話がかみ合っているのかかみ合っていないのか。
自由に発言している感じが面白かった。
私の後ろには男女のカップルが並んだ。
「このピザとこのピザが賞とったやつなんだよ」
と、彼女らしき女性。
「じゃ、一枚ずつ頼んで一緒に食べようか」
と、彼氏らしき男性。
いいなぁ。
一人じゃさすがに一枚しか食べられないよ……
いいや。
また、来よう。
ずいぶん並んで、ようやくピザにありつけた。
「おいしそう」
スマホで写真を撮影する。
リビングでテレビを見ながら待っていると、
21時ころ、夫が仕事から帰って来た。
リビングダイニングに顔を出した夫の顔はひどく疲れていた。
「ご飯、食べるでしょ?」
夫のために作り置きしてある夕飯を用意していると
「そんなにはいらないから」
と、夫。
リビングに座り込むと、パソコンをカバンから取り出して立ち上げた。
「どうして?」
食べなくちゃダメなんじゃないの?
というニュアンスで声をかけると、パソコン画面を見たまま
「コンビニのものを少し食べた」
と、夫は背中で答えた。
適当なおかずとお茶を用意してパソコンの近くに置くと
夫は何も言わずにパソコンを見ながら箸をつけた。
今日は、色々話したいことがあったのに……
いつもこんな感じ……
仕方なく、私もリビングに一緒に座りついたままのテレビに視線を戻した。
気分の悪いことは忘れて、テレビに集中しよう。
お気に入りのバラエティ番組で、毎週欠かさず見ている。
ひな壇の芸人さんが、あまりに気の効いた面白いことを言うので、つい笑ってしまった。
夫が冷たい声で言った。
「テレビ、消してくれないか?」
そろそろいい年なんだから、恋人というものを作らなくてはならないと
周りからも
親からも
言われ続けて、一周してそれほど言われなくなって。
「作りたくない」
わけではない。
気にしていないわけでもない。
彼氏という存在が何年いないのか、もう数えたくもない。
会社での、ある取引先の担当者さんが変わった。
事務と受付対応をすることの多い私が、適当に挨拶を交わす程度。
応接室に通して、しばらくお待ちくださいねと声をかける程度。
いつも通り、応接室に通してお茶を出したところで
他愛もないスタートだった。
それは、はじまりだったのかなんだったのか……
そもそも、はじまっているのかすら
解らない。
「そうだ。今度、飯でも食いに行くか」
上司から気軽なお誘いが来て、
個人的には人として好きな上司だったしで「はい!」と軽く返事をした。
それが
土曜日のお昼ごはんで……
「単身赴任だからさ。こっちに居る時は土日ホント寂しいっていうか」
そんな事を言っていて。
それは至って普通のお昼ごはんで、それから何故かちょっとしたドライブをして。
何があったわけでもない。
ただ、食事をしてドライブをしただけで
「今度は○○行こうよ」
笑顔でお誘いを受けて、「あ、はい」と返事をしてしまったものの
「じゃあ、□□日の12時に。同じところで待ち合わせ。車で迎えに行くよ」
上司が迎えに来ると約束をした場所で。
なんてことのない大通りの一本入った場所で、スマホを見て時間をつぶしながら
少し前に話題になったスポットがある。
地元のなんてことのない場所だったところが、SNSの流行により
「この景色なに!?」ということで話題になった。
たまたまTwitterで見かけた私も
「行ってみたいな」なんて思ったのだけれど……
車で行かないと面倒な立地。
一人暮らしを始めるときに車の維持費を惜しんで、中古の軽を売ってから
ペーパードライバーになった私は、なかなか行くことが出来ないまま……
「そういえば、先輩行きたいって前言ってましたよね? 今度の土曜に彼氏と行こうって話になったんですが、一緒に行きますか?」
会社のランチで、仲良くしている後輩の女の子からの提案があって。
普段なら、断るところだけれど……なかなか休みに出る機会がなかった私としては
「え、いいの?」
なんて言ってしまった。
話題のスポットは、本当にこじんまりとしたところで
写真を撮影したらもうほかにすることは無いような、ほかには何もない場所で。
やはり、電車を乗り継いで来たら結構がっかりしたかもしれないなぁ。
連れてきてもらって良かった……と思った半面で
「好きなんだ」
それは、もうかれこれどれほど前のことだっただろうか。
ぼんやりと考えて指折り数える。
一年、二年、三年、四年……
知り合った彼は、会社の取引先の人だった。
なんだかウマが合って、プライベートでもお互いに飲みに行った。
彼女が居ることは知っていたし、いいなとは思っていたけれど
仕事の延長と、友達の様に仲良くなれたらいいな、と。
そんな気持ちで、軽いバカ話をしながら盛り上がったり
仕事の話を真剣に話したり
好きな人がいる。
かれこれ、何年彼のことを想い続けているのだろう。
もう……5年……7年……8年?
声をかけてくれる男性がその間、いなかったわけではないけれど
応じてしまうと、彼のことを諦めなくてはならない気がして……
連絡先は、知っている。
連絡は、ほとんど返ってこない。
時々、彼の都合が良い時には彼の都合のついでに一緒に食事をとることができる。
でも、彼はいつも別のところを見ているみたい。
面と向かって告白をしたら
今の関係すら切れてしまう気がして……
家賃も払わずに
私の心の中に住み続けている――彼。
土曜の朝。
いつもの習慣で早く起きて
朝ごはんを作って、夫の朝ごはんをダイニングテーブルにラップをかけて置いた。
子供が県外の大学に行ってから、夫婦ふたりの生活。
夫がまだ起きてこないリビングで、コーヒーを飲みながら新聞をめくる。
あら。
地元の水族館でイベントがやっている!
今日は会社の飲み会だった。
車で通勤のために、お茶でお付き合いをさせて貰う形で参加をした。
最近の仕事の話
社内コミュニケーション
そういう意味では良かったと思う。
お酒が入ってくだけてくると、40代既婚者の男子社員がわいわいと雑談を話しはじめた。
「俺、コンパに誘われたんだけどさぁ」
「え!? そうなんですか!? どこのツテです?」
30代男子社員が興味ありげに前のめりに彼の話に食いついた。
「いや、取引先で仲良くしている人から声をかけられて。男が集まらないからって」
「男が集まらないんですか?」
「それがさぁ……相手の女が30後半から40代だって言うんだよ? それ、行きたいと思う?」
「それ、コンパじゃなくて単なる修行ですね」
「だろ? もううまいこと断るのが大変だったんだよなぁ」
あはは。
と、笑う。
既婚者二人がなにを話しているのか。
と、一瞥してお茶に口をつけた。
けれど、
車での帰り道に彼らの会話が頭の中でくるくると回った。
結婚して、二年になる。
そろそろ、結婚をしなくてはならないんじゃないかと年齢的に焦ってきて、タイミング的に結婚をした。
大きな不満はなかったはずなのだけれど……。
朝。
ぼんやりとしている夫を起こして、朝ごはんを食べさせる。
「ねぇ、昨日ドラマでね」
声を掛けるけれど、彼は聞こえていないのかもくもくと朝ごはんを食べ続ける。
「聞いている?」
少し声を大きめに掛けると、ぼんやりとした表情で「なに?」と返してくる。
毎日深夜近い帰宅で、忙しいのは知っている。
だから、朝は辛いのも解る。
「なんでもない」
だから、何も話せなくなってしまう。
夫はもくもくとご飯を食べて
「行ってきます」
会社に向かう。
誰も居なくなった家の中で……
ずっと気になっている人がいる。
彼と、他愛もない連絡のやりとりすらしなくなってどれだけたつだろう。
好きだった……のかすら、もう、今となってはわからないけれど
引っかかっては
いる
ふと立ち寄った神社で
絵馬を見かける。
自分は「恋愛」というものから程遠いところに居るのではないか。
なんてそんなことを思う。
もちろん大人だから
そんな中二病的な話を人にすることはないのだけれど……
ことごとく、うまくいかない。
楽しい恋愛というものは、私が隔離された外にあって
私はそういう世界に触れられないのではないかとすら思う時がある。
彼氏居ない歴が片手の指の数に差し掛かろうとしている。
前彼と別れて、ひどく落ち込んだ一年を過ごした。
それから、『浮上した』というよりは、どこか『無』になった自分が居て。
こと、恋愛に対しては感情の起伏がやたらと薄くなってしまった。
気を使ってくれた友達がコンパの誘いをくれたことがあったけれど、心は動かず。
ただ疲れるばかりで……
気がついたらコンパの誘いもなくなった。
暇な休み。
家の中でコロコロと転がってぼんやりとスマホでネットを見続ける。
『恋活』
そんな言葉を見かけて、
何かしなくてはと思うものの……
ふと目線を投げた部屋のドア。
ずっと好きな人がいる。
彼との出会いは、コンパだった。
人数合わせで呼ばれたと言っていた。
仕事が忙しくて、遅れてやってきた彼は、なんだか一際輝いて見えた。
連絡先の交換をできた自分はよくやったと思う。
連絡をしても、既読がつくのが遅い。
既読がついても、スルーになることも多い。
返ってくるのは短文。
『ごめん。今、仕事がたてこんでいて』
それでも、連絡を返してくれることに期待感があった。
月に一度程度、彼と飲みにいくことができる。
もちろん、私から誘って、予定を併せて
ギリギリにキャンセルになることも多いけれど、めげずに誘って
会えることが、最初は嬉しかった。
やっぱり、私はこの人が好きなんだと思ったのだけれど……
「今、仕事が新しいプロジェクトの立ち上げになっていてね。もうぐちゃぐちゃなんだよ」
飲みに行くと、今の彼の仕事状況をただ聞いた。
月に一度の飲み。
それも、さっくりと二時間程度で「じゃあ」と帰ることになる。
進展の気配がないまま、もう半年以上が経過していた。
一緒に過ごしているものの、彼はずっとあさっての方向を見ているような気がする。
はじまったのは、もう一年も前のこと。
彼のことは好き。
親には到底話せない、恋。
友達には止められている、恋。
土日は連絡出来ない、彼。
会うのはいつも夜だけ……。
彼と初めての少し足を伸ばしたデートに出かけた。
いつもは、居酒屋で話すとか、お互いの日用品の買い物に付き合うだとか
そんなデートしかしたことが無くて。
初めてのデートらしいデート。
それがとても嬉しかったのだけれど……
「あ、ねぇ。あれ何だろう?」
声をかけてみたけれど、返答はなし。
隣を見ると、聞こえていない様子でただずっと前を見て眠そうに歩いている。
確か、昨日仕事が遅くなったからって眠いとは言っていたけれど……
なんだか話しかけることが出来なくなって、せっかく二人で歩いているのに無言になってしまう。
大きな公園の階段にさしかかったところで、どんどんと先に歩いて行ってしまう彼に気がついた。
会社でとても気になっている人が居る。
転勤してきた彼が、とても好みでとても気になって。
同じ部署になって、席配置が変わって、隣の席になった。
右隣の先輩が直属の先輩になるし、左隣の彼とは直接の業務のやりとりは無いんだけど
先輩が席を外している時を見計らって
「ねぇ、ねぇ。このワードが勝手に文字寄せされちゃうんだけど、これってどうしたらいいの?」
知っていることだけれども、ちょっと質問をしてみた。
「あぁ」
彼が言ったのはそれだけ。
隣から手を伸ばして、さっと直してしまった。
「ねぇ、ねぇ。なんか、パソコンがかな入力になっちゃったんだけど、直し方知ってる?」
懲りずにまた質問をしてみたけれど
「あぁ」
また、それだけ。
そして、片手を伸ばしてすっと直してしまった。
一生懸命声をかけているのに
レスポンスが薄い。
彼氏から最近連絡があまり無い。
つき合う前や、つき合ったばかりの頃は、彼から頻繁に連絡があったのに……
気がついたら、彼から連絡をくれることはほとんどなくなった。
3日前のメッセージも、私から打ったものに遅れて返事が届くだけ。
「なんで連絡くれないの?」
そんな質問をすると、彼は面倒くさそうに
「今、忙しいんだよ。それだけ」
と、答えた。
どんなに忙しくても、メッセージ一本打つ時間も割けないなんてことないはずなのに。
今日も一日待っていたけど……結局、彼からメッセージは来ない。
彼氏居ない歴が片手の指の数を超えた。
彼氏の作り方は一体どんなものだったのかと思うほど、もう、ずっと居ない。
暇な休みの日に、ネットを見ていると……目に付いた
恋活サイト
何? 出会い系?
そんなことを思いながらも、女性無料の登録につい登録してしまった。
適当なプロフィールを書いて……
思いのほか、早く連絡が来た。
サイトを通じてメールのやりとりをして、会うことになった。
不安だった私は、家から電車で少し離れた場所を待ち合わせに指定した。
彼の情報からして、彼の住んでいるところから車を飛ばして三時間ほどかかる待ち合わせ場所には、ひょっとしたら来ないと思っていた。
つき合って三ヶ月の彼氏が居る。
けれど、気になっていることが一つ……
彼氏が元カノと連絡をまだとっていること。
「私は嫌だから、元カノとは連絡取らないで」
長い話し合いの末、「わかったよ」と彼が言った。
長い話し合いで彼は納得したと思っていた。
それが……
ある日。
彼のTwitterを見ていたら……
飲み会の写真をUPしているものを見かけた。
『仲良しの仲間と飲み会! 楽しかった!』
そんなコメントと共にUPされている写真。
私、そんな話、一切聞いていなかった。
けど、それ以上に……
写真のはしに見つけた、
元カノの存在
休みの日にポカンとやることが無かったので
パワースポットだと会社の後輩に聞いた神社に、なんとなく足を運んでみた。
日曜ということもあるかもしれない。
後輩から聞いたくらいだから、話題になっているためなのかもしれない。
天気がいい休みの日は
一人暮らしの私にとっては「買い物の日」になることが多い。
近所のスーパーまで歩いて、
日用品を買って、食材を買って……
そうそう。
トイレ掃除用のものが切れていたんだっけ。
天気のいい日は外を歩いているだけで気持ちがいい。
なんだか気分も晴れやかになってくる。
一人暮らしのタイミングで車の管理まで金銭的に回らないという理由で愛用していた中古車を手放してしまったけれど
買い物の時ばかりは、車があったら便利なのに……なんて思ったり。
買い物を終えて、家への帰り道。
ふと、荷物を持った私の影を道路に見つけた。
桜の季節がやってきた。
桜の時期になると、通勤途中に一本桜の木があったことを思い出して、
いつもその木をチェックしながら「いつごろ満開だろう」なんてことを考える。
「あ。今週の土日行けるな!」
そんな咲き具合を見つけると、今度はお天気チェックに入る。
今度の土日は絶対晴れがいい。
桜見に行きたいからね!
ピーカンに晴れた土曜に、朝からわくわくしながら出かけた。
15分ほど電車に乗って到着する、一番家から近い地元の桜名所。
満開♪
半年ほど前のこと。
それはそれは、とても怒涛の出来事というか……
怒涛の、押し、だった。
「つき合ってください!」
と、とてもストレートに言われた。
けして若くはない年齢で、どストレートに言われることが少なくて、それだけで結構驚いていた自分が居た。
存在はお互い知ってはいたけれど、会話を殆ど交わしていなかった人。
それほど、接点が無かった人。
そんな人と、しっかりと話し込む機会があって、
それなりに興味は持っていたのだけれど、それでもイキナリそんな話には……
「今、つき合っている人がいるんですか?」
「それはいませんけれど……」
「じゃあ、つき合いましょう!」
そんなパッションタイプでもない私は「彼氏募集中」の札を首からぶら下げているというのに
のることが出来なかった。
「なんで、そんなことを仰るんですか?」
「好きだからです。いや、あなたを知った時から気になっていました!」
なんだか、嘘っぽく思えたりして。
知った時から?
それっていつ?
それって、どうして?
「彼氏募集中」の札を首からぶら下げているのにも関わらず、
どうも私のその「彼氏募集中」の札の裏には、虫眼鏡でもなければ見えないほどの細かい字で条件がみっちり書かれているみたい。
それがどんなものであるのか、私自身解らないのだけれど……
「考えておいてくださいね!」
犬を飼っている。
一人暮らしが寂しくて
「生き物飼っちゃいけないんだよ。彼氏できなくなるよ」
って言われたんだけれども、我慢できなくて。
会社の家の往復だけではなんだか辛くて
つい、犬を飼った。
お陰様で残業はあんまりない仕事だし、
少し早く起きて、近くの公園まで行って帰ってくるのが、朝の日課。
いつの頃からだろうか……
公園付近で、見かける……同じように犬を連れた年の若い男の子がなんだか気になりはじめた。
年の近い友達は殆ど結婚をしてしまって。
なかなか話の合う人がいなくて。
もっと自由で居たいし
もっと遊びたいし
そんなことで、最近はよく若い女の子と遊ぶようになった。
よくよく考えれば年は10も離れているような女の子たちだけど
話は合うし
面白い
今日もよく遊ぶ年下の女の子と
安くて気楽でちょっとお洒落なバーで飲みながら会話をする。
同棲をしている彼氏が居る。
彼が過ごしやすいように、いろんなことをしてきたつもりだ。
食事には徹底的に気を使った。
ジャンクフードは却下。
温野菜多め。
お腹にたまる、カロリー低めの栄養素の高いものを。
手抜きはしない。
好きな人がいる。
片思いをして、かれこれ何年になるだろうか?
時々、会う。
進展はない。
連絡先は知っている。
メールは殆ど返ってこない。
諦めたほうがいいのだろうかなんて事も考えるけれど、
彼の存在が自分の支えになってきたのも確かだったりする。
好きな人がいるから、頑張れたこともたくさんあった……。
ここ最近、珍しく知り合った男性からデートの誘いを受けた。
『今度の日曜、暇ならドライブでも行かない?』
日曜に予定は何もない。
だから、別に良かったのかもしれないけれど……
――私、好きな人がいるから。
断った。
暇な日曜日。
ご飯を作るのも面倒で、近場のファーストフードで適当な物を買ってくる。
「あんた、いい人見つけなさいよね」
そんな言葉を親も言わなくなって数年が経過していた。
いい人を見つけないようにしているわけではないのだけれど……
街を歩くと、ひな祭りの飾り。
そうか。
今日はひな祭りか。
家でお雛様を飾らなくなって、一体どれだけたつんだろう。
休みの日を一人で過ごすようになって、一体どれだけの年月が流れたことだろう。
梅の花が見頃らしい。
そんなニュースを見かけて、暇な休みにフラフラと梅の花を探しに歩いてみた。
花を愛でる。
そんなゆとりは今まで無かったし、
そんな気分にもなったことが無かったのに……。
ブラブラ歩きながらスマホで調べてみると
花見といえばサクラになったのは江戸時代以降で、奈良時代は梅の花を愛でる文化だったことを知る。
ふぅん。
近所の公園で、梅の花を見つけた。
あら。
こんなところにも梅があったんだね、と。
婚活をはじめた。
知り合いに紹介された婚活アドバイザーの人に引き合わせて貰って、何人かの人と会った。
イマイチ、ピンと来ない。
だんだんと婚活アドバイザーの方の口調が強くなる。
会社で仕事をしていた時のこと。
部長と係長がなにやら近くで雑談をしているのが聞こえてきた。
「そんなのさぁ? 適当に花でも買って帰っておけばいいんだよ。女なんて、花さえ渡しておけば機嫌がいいんだから」
「そうですかねぇ?」
「そうだよ。小さいやつでいいからさ」
パソコンを打ちながら、そんなもんかなぁ? なんて思った。
別に、貰ったって私は嬉しくないんだけど。
その日の夕方。
半年前につき合うことになった彼から連絡が入った。
彼の仕事が忙しいらしくて、ずっと会えていなかったんだけど……
『今夜は一緒に居られるから』
ということで。
出張ついでのそのまま直帰を駆使して会いに来てくれるということなんだろう。
そして、明日は平日だからお互いに朝は出勤になる。
結局、我が家のチャイムが鳴ったのは夜23時を回っていて
ようやく彼が来たかと思って扉を開けたら
「遅くなってごめん」
彼が持っていた小さな花束。
結婚して、三年になる。
ようやく出来たこどもがすくすくと育って、お腹が大きくなりつつある。
それは幸せな命の鼓動。
ただ。
幸せがお腹で育っていくことと裏腹に
不安がどんどん育っていく。
こどもが出来る少し前から、夫とのすれ違いが増えてきている気はしていた。
こどもが出来た時も、どこか喜んでいる節が見えなかった気がする。
お腹が大きくなるのに連れて、夫の出張がやたらと増えた。
出張から帰ると、会話もなくただ「疲れた」としか言わずにさっさと寝てしまう。
つきあって間もない彼がいる。
初めてのバレンタイン。
絶対に渡そうと心に決めた。
可愛いラッピングも用意して。
「バレンタインの日、会える?」
と、彼に質問をすると
「いや……その日はちょっと仕事で忙しいから難しいんだ」
断られてしまった。
けど……忙しくても受け取るくらいならできるよね?
前日の夜に一生懸命作って、ラッピングを終えて
会社が終わったら早速チョコレートを持って、彼の会社へと出向いた。
パラパラと小雨。
今週また寒気が来ているという寒さ。
そんな、東京だとか、大都会まではいかなくても……
普通にコンビニが近くにあって
普通にファーストフードが近隣にあって
そんな生活に憧れて
田舎を出て、一番近い「街」という場所に一人暮らしをはじめて
生活のために必死に働いて
ふと、気がついたら結構ないい年で……
街に住むには、街で暮らしている人と結婚をしなくちゃいけない。
なんて、なんだか急に焦りだして。
そんなタイミングで声をかけてくれた、男性がいて
お付き合いがはじまったのはいいのだけれど……
久々に実家に戻ってみれば、相変わらずの田舎の風景。
母方の祖父三回忌があって、親戚が集まることとなった。
就職してから一人暮らしがはじまった私のところにも、母から「おじいちゃんの三回忌だけど、あなた来られる?」とメールが一本入った。
祖父母の家は、隣の県の少しばかり山に入ったところで、のんびりとした景色が広がっている。
親戚が集まるたびに使われる、畳の部屋に入ると「来たんだなぁ」なんて気分になる。
三年間、同棲していた彼が
居た。
彼が転がり込むように家にやってきて、三年。
元、会社の同期。
連絡先は知っている程度の仲だった。
会社の転勤で別の支店に行った彼が、久々に戻ってくるということで同じ支店の同期が集まって飲んだのがきっかけで
そこから仲良くなって、
彼が人間関係でとても悩んでいることを知り……
つき合ったくらいの頃に、彼は私の居る会社を退職した。
それから、次をすぐ探そうとしない彼は地元に戻っても実家に居るのは気まずかったみたいで
私の家へと転がり込んできた。
就職先を探す素振りもあまりなかった彼の半年を支えて
派遣の登録をして一年の仕事が決まって……
やはり正社員にならないと、と
なだめて、背中を押して、支えて
新しい会社に就職して一年。
ようやく彼の仕事も安定したと思ったその矢先に
「好きな女ができたんだ」
新しい会社の事務に居る女の子らしい。
荷物をまとめてさっさと出て行った。
頑張った私の三年間は、あっけなく終わった。
コンビニで適当な食材を買ってきて、家のレンジで温めながら
ふと
大学時代の友人から、久々に連絡が来た。
懐かしいなぁと思って、空いた日にランチを一緒にすることになった。
大学時代はとてもおしゃれをしている子で、男の子にも人気がある女の子だった。
大学時代は時々遊んだりする程度だったし、それほど仲良くしていたわけではなかったのだけれど……
思い出して連絡をとってくれたことも嬉しくて、予定を入れた。
最近わりと話題になっているオシャレなお店を選んで、待ち合わせをすることにした。
久々に会った彼女は、以前より少し派手になった印象を受けたけれど
相変わらずお洒落で
相変わらず美容にはとても気を使っている様子だった。
「久し振りだね」
「元気だった?」
そんな話をして、頼んだパスタが届いた頃に
つきあって二ヶ月の彼がいる。
彼と泊まった日の夜、寒波が来て雪が降った。
外に積もる雪を窓から眺めて、外に出る頃には随分と溶けてきていた。
雪が降った翌日は、空気が綺麗な気がする。
「なんか、いいねぇ」
雪でテンションが上がって彼に声をかけた。
彼は両手をポケットに突っ込んで「寒い」とだけ呟いた。
裏道に差し掛かったマンションの入口に、つららを見つけた。
結婚して7年の夫がいる。
子供が幼稚園と、お腹の中に子供が一人。
やんちゃな長女と、優しい夫と……それほど不満はなかったはずなんだけれど……
「会社で転勤が決まったんだ。役職も上がるし、結果を出せば俺のやりたかった仕事が出来る。ついて来てくれるか?」
住み慣れた故郷を離れることに不安は感じたけれど、
「応援するわ」
と答えた。
転勤して……まだ、近所に馴染めない。
頼りの夫は仕事が忙しくなって、仕事の帰りは遅いし出張も増えた。
娘は大好きなパパに構ってもらえなくて、よくゴネる。
さすが私の娘というか……まだ新しい土地でまったく馴染めない私の遺伝子なのか
娘も新しい幼稚園でうまく馴染めていないようだ。
今まで頼れていた親は遠い
妊娠中の体は、重い
手がまわらなくて、気力が足らなくて、出張で帰ってこない夫に弱音を吐いてみるも
『そこをなんとか……頑張ってよ。俺も頑張ってるんだから』
それは、解っているんだけど……
娘が幼稚園に行っている間に買い物に出かけて、自分の影をふと見かけて……
窓辺から外を見ると、やけに晴れた空が見えた。
晴れた休みの日は嫌いだ。
彼は家族と楽しく出かけているんじゃないか、なんてことを考えてしまうから。
二年近くつき合った彼と、別れることになって。
あんまり気分が下がっていたから……
気分転換に一人で旅行に出かけてみた。
目的も無く、ぼんやりと旅館の外を歩いていたら……
彼との思い出
彼との喧嘩
彼が別れを切り出してきた理由
彼に対して持っていた不満
色んなことが頭を駆け巡って来て……
私、どんな人が合うのか解らない……
事あるごとに、彼のことを思い出すの。
SNSでは繋がっているけれど、今は直接連絡をやり取りすることもない相手……
あの時のことは、全て幻だったのかしら、なんて。
あんなに、あの時は頻繁に連絡をくれたのに、ね。
もう、私のことなんて忘れたんじゃないか……
そう思うし、私も早く次へ行かなくちゃなんて思うのだけれど……
彼のことを思い出すと、つい、スマホを見てしまう。
結婚して一年になる夫がいる。
彼とつき合った期間は一年だけれど、会った回数は案外と少なかった。
「仕事が忙しいから。結婚したら、一緒に居られると思って」
そんなプロポーズだった。
バタバタと結婚が決まって、簡素に入籍を済ませて……
一緒に生活がはじまったけれど……
彼はほとんど家に居ない。
仕事に出て、帰ってきて、ただお風呂に入って会話も無く寝るだけ。
先ほど夫から届いたメッセージは
『今日、やっぱり遅くなるから。夕飯適当に食べるからいらない』
今日は早く帰って来るかもって言っていたから……鍋にしたのに。
「君のこと、大切にしているんだ」
と、彼は言う。
「愛してるよ」
と、彼は言う。
けれど、連絡は常に彼の都合。
会うときも、全て
彼の都合。
仕事だから
忙しいから
今、結構辛い時だから
「君といると癒される」
と、彼は言う。
「大好きだよ」
と、彼は言う。
けれど……
ずっと彼に振り回されている気がして……
言葉だけな気がしてきて……
「君との先のことも、ちゃんと考えているから」
と、彼は言う。
まるで蜘蛛の巣にかかったみたいに、甘い糸が私に絡む。
同棲していた彼が居た。
このまま結婚するんだろうと思っていたのに……
「俺、他に気になる子が出来たから」
つきあって5年目の衝撃。
元々、一人暮らしをしていた私の家に転がり込んできた彼だったから……
さくさくと荷物をまとめて出て行った半年ほど前。
友達には
「良かったんだよ。先は見えなかったし、それにちょっとダメンズ入ってたじゃん」
なんて言われて
そうだよね。
なんて答えたけれど……
まだ
捨てられない彼の歯ブラシ。
一人で車を飛ばして海辺に来て……
吹き付ける風に髪を乱されても一人だから気にすることもなく。
とぼとぼ歩いていたら……
愛の誓いだか知らない南京錠スポットが目に付いた。
お正月には、彼は地元に帰ってくると思っていた。
仕事は忙しいって言っていたから……
普段メールを打てなかったけれど……
「メリークリスマス」
「あけまして、おめでとう。
昨年はなかなか会えなかったけれど、今年は会えるといいなぁ。
追伸:今日はすき焼きでした(写真)」
冬は、空気が澄んでいるからなのか……
夜景が綺麗に見える。
そのせいなのか……
イルミネーションが多い気がして……
冬のイルミネーションは、嫌いだ。
イベントが多い時期。
家族と過ごすことも多い時期。
だから、彼には会えない時期……
一人で見るイルミネーションは
会社が長期休みに突入したので
目的もなくフラフラと話題のケーキ屋に足を運んで舌鼓を打った後
中学だかの頃によく足を運んだ図書館が近くにあることを思い出し
ふらりと立ち寄った。
結婚式の案内が届いた。
大学時代のに仲良くしていた中の一人で、時々連絡をとっていた子でもあった。
共通の友達は就職を機に県外へ行ってしまったことと、どうしても日程が合わないとかで
「来てくれると嬉しいんだけど、他には知り合いがいないからと思って」
気遣ってくれた友達に、「祝い事だから行くよ」と、参加の意思を伝えた。
「あいつ、結婚決まったよ」
男友達の話で、めまいを感じた。
「え? 聞いてないの?」
仲良くしてたんじゃないの?
と、重ねて言われる。
仲良くしていたつもりだ。
微妙な関係でもあったと思う。
ここ最近彼女が出来たことは知っていた。
前の彼女のことも知っているし、また距離を置く時期が来たのかと思った。
彼のことは気になる存在ではあったし……
微妙に気のある素振りをしてきたことがあったのは、なんだったんだと……
結婚が決まったというのに連絡一つよこしもしないのか、と……